タブレット型情報端末機器による被災建物調査ツールの開発
平成23年9月14日
平成24年6月08日一部修正
住宅・都市研究グループ
■開発の経緯

 阪神淡路大震災後の建築物被害調査においては、紙媒体での調査票を地図と照合しながら入力するという作業が膨大な量となり、この作業負担の軽減が課題でした。そのため、建築研究所では、携帯型情報端末を活用して、現地調査の際にその場で電子的に調査結果を入力するための支援ツール(City-Surveyor)を開発し、HP上で公開しました(H13-14個別重点課題「携帯型情報端末による現地調査支援システムの開発」)
 この支援ツールは、当時主流であった携帯型情報端末(Palm OS機)上で稼働するものですが、現在ではPalm OS機の入手が困難となっています。そのため、東日本大震災発生時には、支援システムを利用することができませんでした。
 そこで、支援ツールの開発当時、その開発を受注した国際航業(株)の協力を得て、現在主流となっているタブレット型情報端末機器(iPad)で利用可能となるように、支援ツールを移植するとともに、機能の拡張を行いました。以下、これを「被災建物調査ツール(新調査ツール)」と呼びます。
 新調査ツールは、表示画面が大きく・高解像度になるとともに、さまざまな点で使い勝手が向上したほか、GPSやデジカメ機能が内蔵されたiPadを用いることで、これまで複数の機器・ツールで行ってきた作業を統合し、iPadだけで完結することが可能となりました。
 なお、iPadだけでなく、iPhone4などのiOSが稼働する情報端末機器で利用可能なため、新調査ツールをインストールすることにより利用可能な端末数が大幅に拡大しました。

新調査ツールを用いた現地調査の様子

図1 画面の大型化・高解像度化


■新しい被災建物調査ツールの特徴

  • 端末単体で調査が完結
  •  これまでは、調査員が紙の地図と調査票を持って現地に行き、地図を広げて調査対象建物を確認し、調査票に記入する必要がありました。しかし、本調査ツールを用いると、図1に示すように、画面上に地図が表示されるため、紙の地図を持ち歩く必要がなくなります。また、調査結果も画面上で入力するので、紙の調査票を持ち歩く必要もなくなります。
     図2は被災地で本調査ツールを用いた調査の試行をしている様子です。試行のため、調査ツールの画面と紙地図との比較用に大きな紙地図を広げていますが、本調査ツールを用いると、このように紙地図を持ち歩く必要が無くなります。さらに、後で述べるようにiPadの写真撮影機能を用いることで、デジカメを持ち歩く必要も無くなります。
     このように、本調査ツールを利用すれば、従来調査のために持ち歩いていた紙地図や調査票、デジカメが不要となり、調査員の負担を軽減することが可能です。


新調査ツールを用いた現地調査の様子

図2 新調査ツールを用いた現地調査の様子

  • 端末の画面をタッチしていくことで調査結果を入力可能
  •  これまでは、紙の調査票に調査員が結果を書き込まなければなりませんでしたが、例えば、「全壊」・「半壊」など、あらかじめ選択肢を新調査ツールに登録しておけば、画面に表示される選択肢をタッチするだけで入力することが可能です。これにより、調査員の入力の負担を軽減するだけでなく、記入ミスを軽減することができます。


  • 応急危険度判定では、画面をタッチしていくだけで総合判定結果まで自動算出
  •  例えば、被災建築物の応急危険度判定を本調査ツールを用いて行う場合は、図3に示すように、実際の調査票と同じものを画面上に表示して、画面をタッチしていくだけで選択項目や数値の入力が可能です。また、総合判定結果は入力した内容に応じて自動的に判断されますし、選択した内容に応じて、入力が不要な箇所への誤入力を防止する仕組みを取り入れているため、入力ミスや判定ミスを大幅に軽減することが可能となっています。


応急危険度判定の画面
  • 調査目的に応じた項目の変更が容易で、幅広い応用が可能
  •  調査項目の内容や入力の選択肢などは、利用者側で自由に変更することが可能です。また、その作業は、エクセル等の操作が可能な程度の知識があれば容易に可能ですので、調査を行う自治体の職員などが調査目的に応じて、自ら変更することが可能です。
     このように、応急危険度判定だけでなく、住宅の罹災証明のための調査、自治体の独自調査など、現地で建物の状況を調査する必要がある様々な調査に幅広く応用することが可能です。


  • iPadで撮影した現場写真を有効活用
  •  従来は、デジカメで調査建物の写真を撮影した場合、それを調査後に建物の情報と関連づける作業が必要でした。たとえ写真データにGPSの位置情報が埋め込まれている場合でも、GPSの測位誤差等のため、周囲に写っている建物などを手がかりに、建物毎の調査票と写真との関連づけを行う必要がありました。
     しかし、新しい調査ツールでは、調査対象建物の写真をその場でiPadを使って撮影することによって、建物の調査データの1つとしてその写真を取り扱うことができます。そのため、従来必要だった関連づけの手間が不要であるばかりでなく、間違って関連付けしてしまうリスクを無くすことが可能となりました。また、デジカメを持ち歩く必要が無くなるというメリットもあります。

地図上の建物と関連づけられた現場写真

  • 調査結果は電子的にサーバに集約
  •  紙の調査票を用いた調査の場合、現地での調査終了後に紙の調査票を見ながらパソコン上で電子的にデータを入力し集計する必要がありました。しかしながら、本調査ツールを用いた場合、調査終了後にiPadからパソコンに情報を移すだけですので、紙の調査票の場合のような入力の作業時間が不要であり、入力ミスの心配も無くなります。そのため、集計作業の時間と労力を大幅に削減することが可能となります。
     また、iPadがインターネットに接続可能な状況であれば、調査結果をインターネット経由でサーバに送信することで、リアルタイムに調査結果を集約することも可能です(ただし、情報がインターネット上に流れることになるため、情報流出のリスクも高まることになることを十分理解した上で、調査内容に応じて情報の集約方法を検討する必要があります)。


  • 国内の様々な場所で調査が可能
  •  図5は本調査ツールの表示画面の例ですが、左側の画面に赤色の枠で示されているのが、調査対象となる建物です。被災建物の調査を行う場合、このように対象建物がどれなのかが地図上で分からなければ調査員が調査することができません。
     自治体によっては、電子地図上で対象建物の形状や位置を示すための建物データを事前に整備していなかったり、震災で建物データを失ってしまう場合もあります。そのような場合でも、本調査ツールでは、図5右側に示すように、インターネット上にあるGoogleマップ上で、建物の中心などに「ピン」を置き、調査結果を埋め込むことで調査が可能となります。
     そのため、Googleマップ上で建物位置が掲載されている場所であれば日本全国どこでも被災建物の調査を行う事が可能です(Googleマップ上で建物位置が掲載されていない場所でも、道路や地形、あるいはGPS情報などを参考にしてピンを置くことで調査は可能です)。

GIS上の建物データが無い場合の例

  • GPS機能を用いて現在地を把握
  •  大規模な被災地の調査では人手が不足するため、現地に不慣れな他の地域の調査員や、地図を読むことに不慣れな臨時の調査員等によって調査を行わなければならない場合があります。そのような状況で自分の現在地を把握するために、GPSは有効なツールです。iPadのGPS機能が利用可能な場合には、調査ツールの地図画面上に、自分のおおよその現在地を表示することが可能ですので、調査対象建物を探しやすく、かつ、間違いにくくなります(ただし、GPSは人工衛星からの電波の受信状況などによって位置の測定精度が変わることや、地震で地面が大きく動いてしまった場合にもGPSで得られる緯度経度の情報と地図情報の関係が変わってしまうため、注意が必要です)。


  • 無償で利用可能
  •  応急危険度判定専用のツールの試用版について、Apple社の “App Store” において近く無償配布を開始する予定です(配布が開始されたら、建築研究所のホームページでお知らせします。ただし、提供するのはソフトウェアのみですので、端末そのものは利用者にご用意いただくことになります)。


■今回の被災地での利用状況と今後の予定

  • 宮城県気仙沼市において、国の直轄事業「被災地現況調査業務」における現地調査等に、本調査ツールを活用しています。
  • 被災地自治体等からの要請に応じて、本調査ツールを活用した現地調査実施に対する技術指導等を行っていきます。利用を検討される場合は、下記の問い合わせ先までご連絡ください。
  • 今後も、機能の改善・拡張などを行っていく予定です。また、Android OSへの対応等についても今後の課題として、検討を行っています。

問い合わせ先

独立行政法人建築研究所
住宅・都市研究グループ 上席研究員 岩田 司
  主任研究員 石井 儀光

※平成24年6月7日に開かれた建築研究所第7回専門紙記者懇談会で、本件のその 後の状況に関する説明を行いました。配布資料はこちらです。




住宅・都市研究グループTOP前のページに戻る



 所在地・交通案内
関連リンク
サイトマップ
お問い合わせ
リンク・著作権


国立研究開発法人 建築研究所, BUILDING RESEARCH INSTITUTE

(c) BRI All Rights Reserved