■建築研究報告

木質材料及び部材の長期耐力評価に関する研究

有馬孝禮, 佐藤雅俊, 益田恵吾

建築研究報告  No.95,  March  1981,  建設省建築研究所


<概要>

  木造建築物の主要構造部を構成する材料や構造形式は近年著しく変化してきており,従来の製材品を主体とする「木構造」とは異なった「木質構造」といった名称が一般化してきた。それは材料面からみると集成材,合板,パーティクルボード,ハードボードなどの木質材料の使用であり,構法面では木質系プレハヴや枠組壁工法の登場がそれと一体になっていたと考えられる。この中にあって,主要構造部を構成する材料,部材や接合部の構造性能の評価は流動的で複雑化してきた。また一方,評価をとりまく外的条件も著しく変化してきており,設計・施工面の合理化をはかると評価との間に矛盾を生じることも多くなってきた。このような背景をもとに新たな木質構造の合理的な設計に対応し,かつ天然資源である木材等の将来にわたっての適正な使用法の裏づけとなる新たな評価体系の確立が強く望まれるようになってきた。本研究は現在木質構造において重要視されつつある長期性能に関する評価法についてとり上げたもので,その基本的な流れは木質材料及び部材の特性を基本として,建築物における使用部位,条件に対処しうる木質材料,部材の長期構造性能評価の体系を作成することにある。本報告に記された内容についてその概要をまとめれば以下の通りである。

  第I章では木質材料や部材の材質試験や使用環境下における性能評価に関する木材の基礎的物性について検討した。とくに湿分,温度との関連に主体をおき,Mechano−sorptive変形やセットの回復など木材のもつ特異性および木質構造の重要な部分である釘に対する性質を現象的に明らかにした。この結果,材料の耐力低減などを適正に評価するためには,湿度,温度などの条件を区分することが重要であることが示された。また逆にこれらの代表的な条件を設定することによって材質試験等に適用できることを明らかにした。とくに温度と湿度の物性に及ぼす影響には相互関係が強いことが示された。また湿度については,湿分と水分とでは物性評価上,影響がかなり異なることが認められ,その乾湿の繰り返しについても著しい差異の生じることが明らかになった。

  第II章では,木質材料,部材及び釘接合部等のクリープ変形を現象面より明らかにした。とくに比較的データの乏しい部材や釘接合部のクリープ挙動について実験式の一般化をなすとともにそれによる長期変形の推定等を行った。また,荷重増減にもとづくクリープ変形の変形機構についてモデルを提案し,適用を試みた。これらから,長期の変形推定については作用する時間・応力条件の区分を行うことが必要であり,これが木質材料,部材のような粘弾性的性質を有するものの合理的な評価体系にはきわめて重要であることを認められた。また,第I章で述べた湿度等の条件との組合せを考慮すべきことが明らかにした。

  第III章では第I章,第II章で得られた木質材料・部材の特性をもとに長期耐力評価のための作用条件の区分法について提案を行った。この作用条件の区分は湿度,温度,応力の大分類からなり,材質低減や変形挙動の物性面の臨界点より各々の区分を行った。温湿度の区分は耐力低減のための材質試験の条件設定や使用環境との対応に有効であり,適正な材料選択や合理的設計に資することが可能になると思われる。また,応力条件区分は,木材のような粘弾性体における長期変形のより適正な評価に資し,合理的設計に寄与すると思われる。

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