室内温・湿度変動の長期予測に関する研究
土橋 喬雄
建築研究報告 No.93, 1981 建設省建築研究所
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<概要>
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室内温湿度変動の長期予測法に関する研究開発は,住宅の結露防止評価法ならびに結露防止設計法を確立する上で必要不可欠なものである。
本報告は,室内温湿度変動の長期予測法について述べたもので,1.室内湿度変動予測法,2.室内温度変動予測法,3.多数室換気計算法を三本柱としている。
- 室内湿度変動予測法では,室内における水蒸気の平衡を考え,加湿源からの水蒸気の発生,換気に伴う外部・他室からの流出入,窓ガラス面等での結露,周壁の吸放湿の収支結果として室内湿度変動を捉える基礎方程式を基本としている。
とくに周壁の吸放湿は,室内湿度変動にきわめて大きな影響を及ぼす重要な現象である。壁の吸放湿に関する研究は,前田・松本1),堀江・江口3),斉藤・宮路2)等によって行われてきたが,未だ室内湿度計算に適用できる段階にまで到っていない。そこで,多数の部材から構成される室の周壁を等価な一つの部材に置き換え,その吸放湿性を2日間程度の短期的実測によって評定しようというのが,本研究の主眼の一つである。
壁の吸放湿という現象は,きわめて複雑であり,その機構も未解明のままである。ここでは,吸放湿には壁表面の薄層のみが関与し,この薄層内で瞬時に平衡に達すると仮定し,薄層内の含水率と相対湿度との関係が木材の平衡含水率曲線に相似であるとして数式化している。その場合,木材平衡含水率のC倍が薄層の平均含水率であるとし,また室内から薄層内すき間までの湿気貫流率をK'として,K'とCを未定係数とし実測によって評定する方法が提案されている。その方法は,各室毎に独立に水蒸気および熱を間欠的に発生させ,室内の温湿度変化・加湿量・加熱量を連続測定して30分ないし1時間毎の時系列データを得,室内絶対湿度の理論値と実測値との誤差を最小にするよう係数K',Cを決定するものである。ただし,換気による湿気移動を正確にとらえる目的で,室間の主だった開口は全て目張りし,換気を外部間のみにして機械換気により一定の換気量に保つことが必要である。
上述の方法を検証するためにモデル住宅による実験が行われ,理論値と実測値とにきわめて良好な一致を見ることができた。また,加湿・加熱条件を変えても十分な精度で適用できることが明らかにされた。さらに,得られた係数K',Cを用いて,ある生活パターンを想定した加湿・加熱・換気をおこなう場合の室内湿度計算を実施し,実測との比較により,任意の生活パターンに対してひとたびK'とCを求めておけば予測計算が可能であることを明らかにした。
- 室内温度変動予測法では,室内における熱平衡から室温変動の基礎式を導く場合に,周壁の熱容量の影響を考慮した室の相当熱容量という概念を導入し,湿気の場合と同様に短期的な実験により求める方法を提案している。
室温度変動予測計算に関しては,従来より活発な研究が行われ,周波数応答法や重み関数法14)を経てレスポンスファクタ法13)というきわめて電算機向きの伝熱算法が編み出され,わが国でも“HASP/ACLD”という事務ビルを対象とした電算プログラムが作成されている。しかし,このプログラムは全室空調を前提とした算法であるため,住宅のように室毎に温度の異なる場合には適用できない。その後,住宅用に改良して多数室問題を扱ったプログラムとして“REFAM”が発表されている。しかし,ここでも多数室換気については算法が未開発のまま残されており,今後の課題とされている。
本研究で提案された室の相当熱容量に基づく室温変動予測法によれば,部位毎にレスポンスファクターを求める繁雑さが省け,住宅のように熱的に薄壁の多い場合にはきわめて有利である。また,本予測計算法には,先に今後の課題とされた多数室換気計算が組み込まれており,この点も特筆さるべきことである。
- 多数室換気計算法では,すき間前後の圧力差と流量との関係を基本とするクラック・メソッドにより室内での換気量のバランス式を組み立て,多数室問題として扱っている。
一般に,すき間前後の圧力差と流量との関係は非線形であるため,多数室換気計算では非線形の連立方程式を解かねばならない。解放としては,Newton-Raphson法が一般的であるが,住宅に存在するすき間には精粗があるため解が発散しやすいという難点がある。
このような問題点を克服し,いかなる条件下でも安定して解が得られ,しかも演算時間の短い算法とするために,2分割法と勾配法を組み合わせている。とくに,勾配法にはNewton-Raphson法の代わりに収束演算回数の少ないBrown-Conte法11)を採用し,さらに非線形方程式を四本の折れ線近似で代表させることにより演算時間の大巾な短縮を図ることに成功している。
ここで開発した多数室換気計算では,温度差換気ならびに風力換気を対象として電算プログラムが作成されている。
以上の三つの計算法を組み合わせれば,室内の温湿度変動の予測が可能となり,任意の生活パターン,外界気象条件に対して結露発生時間,周壁含水量等が算出され,住宅の結露防止性能を評価するための重要な判断基準となり得る。
最後に,以上の述べた計算法の応用としてモデル住宅を新潟に建てた場合を想定し,夫婦二人の標準的生活パターンが暖房期間中(11月〜2月)継続されることにより,室内の温湿度等がどのように変化するかを試算している。その結果,室内の絶対湿度の期間内の変動はごくわずかで,外気絶対湿度より4〜5g/kg多い程度に過ぎないのに,周壁の含水量は1日100g以上の割合で増加してゆき,暖房期間の終わり頃には11月初めと比べると1800gの増量となること等が明らかとなった。
このように,従来までの定常計算では推定し得なかった湿気の変動量が捉えられるようになり,より実情に近い結露防止性能の評価が一歩現実に近づいたと云えよう。
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