■建築研究報告

日本付近の地震危険度に関する考察  
−地震活動度、および地盤特性を考慮した地震危険度mapの提案−

服部  定育

建築研究報告  No.81,  1977  建設省建築研究所


<概要>

  ある地点で、ある再現期間に予想される最大地震動の期待値を地震危険度と呼ぶことにする。これは建築・土木工学等で耐震を考慮する際、避けることの出来ない問題である。一般に地震危険度は(i)地震活動度(震源メカニズム、マグニチュード頻度分布、震源分布)と(ii)媒質特性(地盤、地殻、マントルの特性等)に依存していると考えられる。しかし、従来行われたこの種の研究は、主として地震活動度のみを考慮したものであった。

  本研究§1では、従来のこれらの研究を以下の3点を中心に比較検討した。

  1. 使用された地震資料
  2. 解析方法;a:Magnitude、震央(源)距離より、最大地震動を計算する方法、b:aにより得られた最大地震動の頻度分布から、任意の再現期間に対する期待値を求める方法
  3. 得られた値の基盤あるいは地下構造等との関連においての解釈。

  これらの検討から、以下の結論を得た。

  1. 地震資料は期間1885〜1973のものがよく、特に1885〜1925のMagnitudeをいくらか変更して用いるのがよい。
  2. Magnitude、震央(源)距離から最大地震動を計算するには基盤における値を与える金井の式がよい。
  3. 最大地震動の頻度分布より、任意の再現期間に対する期待値を求めるにはGumbelの第3漸近分布がよい。
  4. 地震活動度に基づく基盤での期待値と地盤特性を考慮した地震危険度を示すべきである。
  5. 上記で用いた基盤の定義をはっきりさせる必要がある。

  §2では、地震活動度に基づく基盤における最大地震動の期待値(地震危険度)の地域的分布(map)を求めた。mapの種類は以下のとおりである。

  1. 再現期間50,75,100,200年の速度スペクトル(kine)
  2. 再現期間100年、周期5.0秒に対する変位スペクトル(cm)
  3. 再現100年、周期0.5秒に対する加速度スペクトル(gal)

  これらのmapで、地震危険度の大きいのは次の地域である。

  1. 北海道東方から、東北・関東に至る太平洋沿岸地域。
  2. 中部地方西部、および近畿地方を含む地域。
  3. 瀬戸内海西部から日向灘までの、中国・四国・九州等の一部を含む地域。
  4. 奄美大島周辺の地域。

  §3では、地震危険度に関連する第2の点、すなわち地盤特性について主として述べ、さらに、その他の2、3の問題にもふれる。ある地域の相対的なゆれやすさを次の量で定義した。

ここで、ANS、AEWはJMAのBulletinのList4にみられるNS、EW成分の最大振巾(μ)、Tはその周期(sec)、MはMagnitude、△は震央距離、mはそのstationであるTの範囲に含まれる資料の総数である。このFによって周期をも考慮したある地域のゆれやすさ、すなわち地盤特性を示すことが出来ると考えた。周期、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0secでのFの地域的分布を求めた。周期によって異なるので一概にいえないが、F値の大きいのは、すなわちゆれやすいのはおおよそ以下の地域である。

  1. 四国の南西部・九州地方。
  2. 近畿地方より関東南部にいたる地域(1、2の周期では近畿・中部地方の境界の部分)。
  3. 東北地方南部、特にその日本海側の地域。
  4. 東北地方最北部(青森)及び北海道最南西部(函館)を含む地域。
  5. 北海道地方はTが2.0、3.0、4.0secの場合にFが大きい。

  上記の量Fの外に次の各量の地域的分布を求めた。これらの量が地盤特性又は地震活動度と何らかの関係を有すると考えたからである。

  1. 最大振巾の上下動成分と水平動成分の比
  2. 水平動最大振巾の方向性
  3. 石本・飯田の式の係数m、k

  §4においては、基盤、あるいは地下構造との関連において地震危険度を解釈した。はじめに基盤を一次基盤、二次基盤に分けて、次のように定義した。

  1. 一次基盤
    1. その上下でのvelocityコントラストがかなり大きい。
    2. かなり広い地域で共通に存在する。
    3. 長周期(2-5秒)の増巾は、主として、この面の上の地盤より決まる。
    4. 深さは1〜3kmである。
  2. 二次基盤
    1. その上下でのvelocityコントラストがかなり大きい。
    2. ある点の直下又はその極近傍で固有に存在する。
    3. 短周期(1秒以下)の増巾は、主としてこの面の上の基盤により決まる。
    4. 深さは100m前後である。

  上記の基盤の定義にもとづいて、地震危険度の地域的分布を次のように解釈した。

  1. 長周期(2-5秒)の場合

    §2で求めた最大地震動の期待値(map)を一次基盤でのものとして、これと§3の地盤特性(2-5秒)(map)とを組合わせたものを地表における地震危険度の地域的分布とする。

  2. 短周期(1秒以下)の場合

    短周期の地盤特性F(1秒以下)は、場所による変化がはげしいので、その分布を広い地域に対して求めることは、現時点では難しい。故に、§2の最大地震動の期待値(map)を二次基盤でのものと考えて、これを短周期の場合の地震危険度の地域的分布とする。したがって、地表での値は、問題にしている地点の二次基盤より上の地盤特性を知らなければ得られない。

  §5において、具体的な地下構造がわかった場合の地震危険度の応用の1例として、東京(139.8°E、35.7°N)の地表における最大加速度振巾を計算した。地下構造、一次基盤での入力、phaseのランダム性等の仮定によりいくらか異なるが、平均として、再現期間50、75、100、200年に対して、240gal、300gal、350gal、500galという値が得られた。



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