■建築研究報告 |
壁材料としてのノリとスサ 中村 伸 建築研究報告 No.4, 昭和25年5月 |
<概要> |
吾國古來の木舞壁や漆喰壁にはノリとスサが不可缺な材料として使用されて來た。そのノリとスサの効用について報告する。木舞壁に於ては中塗までは藁を使用するが上塗には土物では上塗用藁(みじん)或は紙を使用し,石灰物では麻(苧とも書く)を使用する。そして土物に於ける水磨きや大津壁を除く他の場合では,糊料として古くは粳米或は膠を用ひたが現在では布海苔を使用する。漆喰壁ではノリとしては角又を使ひスサとしては麻(日本麻,マニラ麻,黄麻)を使ふ。スサはと書くが關東ではツタと呼ぶ。スサの種類については第6表を參照。 ノリの種類はそれよりも少いが角又の産地によって第2表に示すやうな呼名がある。南部角又といふのは岩手縣,青森縣の東海岸に産するもので最上等品といはれ,此れと肩を並べるものは仙台或は金華山と呼ばれるものであるが,仙台は今回の實驗では入手出來なかった。銀杏草は北海道産で此れに次ぐ。中葉は伊豆・房州・茨城縣・千葉縣に産し品質は最も劣る。中葉と似たもので更に葉の大きいものに大葉といふのがあるが今回の實驗には入手出來なかった。布海苔は角又類とは異なった海藻である。 此等の材料を使用する目的は大體次のやうである。 ノリの使用目的
スサの使用目的
3 曲げ強度を若干向上させる。 かゝる目的は何れも實驗の結果と照合して充分果されて`ることを確め得た。 次にノリ,スサの各種別についてその効用を見ると次のやうな結論が得られた。 ノリ 布海苔が最もよいが高價。角又類では市價相當に南部角又,銀杏,中葉の順序となる。殊に南部角又の粘性は高い。 但し煮滓も多い。銀杏と中葉では前者の方が曲げ強度には寄興するが,粘性は後者の方が大きい。 但し中葉の方は煮るのに時間がかゝり燃料も多くを要する。 スサ スサの長さの影響は餘りない。材質の影響も豫想した程のことはなく,重量の割に纎維物の數の多いもの即ち紙,上もみ,藁)なぞは收縮防止の點でも強度向上の點でも成果が多く,濱は最も成果が少い。 |