■建築研究報告 |
「応答スペクトルに基づく建築物の安全限界時応答評価と現行基準に関する研究」 大塚 悠里,平石 久廣 建築研究報告 No.150(2022(令和4年) 4月)
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<概 要> |
現在、日本の中低層建物の多くは1981年に施行された保有水平耐力計算により設計されている。また、保有水平耐力計算とは別に、2000年に施行された限界耐力計算がある。保有水平耐力計算は強度ベースな性能検証法である一方、限界耐力計算は等価線形化法に基づいた変位ベースな性能検証法である。
2005年の構造計算書偽装事件の際には、この2種類の耐震設計法を用いて構造計算した必要耐力には大きな差異が生じることが議論となった。このため、著者等は保有水平耐力計算と限界耐力計算の工学的な差異を明らかにするため、加速度一定領域と速度一定領域における検討を行った。また、等価線形化法による耐震性能の合理的な評価法を提示し、建築物の塑性化に伴う周期の伸びや減衰が建築物の必要水平耐力に与える影響を明らかにした。
一方、既往の研究では地域係数Zを1.0として検討を行っており、建物周期と減衰による低減係数以外の係数である地域係数Zや地盤増幅係数Gsについて建物の耐震性能に与える影響を定量的に把握するに至っていない。また、建物の崩壊時の応答評価に極めて重要な応答周期が属する周期領域の検討は行われていない。
このため、本報告では日本の建物の耐震性の実状と課題を検討するにあたり、応答評価式を物理的意義が明快なエネルギーの釣合に基づいて、地域係数Z、地盤増幅係数Gsを含めて誘導すると共に、既往の知見も含め、体系的かつ総合的な耐震規定の評価を行った。具体的には、建物の崩壊時の応答周期の検討から、多くの建物が崩壊時には速度一定領域に属することを示した。また、エネルギーの釣合から地震時の応答に及ぼす構造因子の影響を容易に視認できる応答評価式を示し、この応答評価式に基づいて、建物の耐震設計時に用いる係数が建物の耐震性能に与える影響を明らかにした。さらに、地盤種別ごとの建物の必要ベースシア係数CBTと地域係数Z、降伏変形Ry及び応答変位の具体的な相互関係を示した。さらに、第1種地盤から第3種地盤の場合について、保有水平耐力計算と限界耐力計算の必要ベースシア係数の比較を行った。
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