■建築研究報告

高強度プレストレストコンクリート杭の抗頭接合部の構造性能に関する研究

杉村義広, 平出 務

建築研究報告  No.112,  1987  建設省建築研究所


<概要>

  建築物の杭基礎の耐震設計においては,杭頭接合部における固定度すなわち回転拘束度及び破壊時の挙動に関する資料を集積することが重要な課題の一つとなっている。
  この報告の前半では,ウインクラーの仮説に基づく地盤反力係数法を用いた杭の水平抵抗理論解が示される。解の誘導過程では,杭頭と杭先端の境界条件を同時に導入することにより,杭頭における回転拘束度αrの概念と杭長の両者の影響が明らかにされている。  この報告の後半では,接合部における回転拘束度と杭の終局強度を解明するために行われた種々の軸力条件下における実大の杭とフーチング接合部に対する曲げせん断実験結果が紹介されている。試験体としては,3種類の有効プレストレス(σe=40,80,100kg/cm2)と2種類の直径(35cm,50cm)とを組合わせた29体の高強度プレストレストコンクリート杭が用いられている。実験は,第1回,第2回のシリーズに分けて実施しているが,載荷方法としては,共通して曲げモーメント分布を地盤中の杭が水平力を受けた時に生じる曲げモーメント分布に類似させるために,回転を拘束された杭頭とピン支点の中間部に集中力を与える不静定加力方式が採用されている。
  第1回実験シリーズでは,主として接合方法の差異の影響をみるために,X,Y,Zの3種類の接合法が選定されている。Xタイプは,従来最も多かった形式で,杭をPC鋼材とも切断した後,フーチング内へ単に10cm埋込む方式のものである。この場合は,杭端部から杭径に相当する長さまで無筋コンクリートを中詰めしている。Yタイプは,Xタイプとほぼ同様であるが,中詰めを鉄筋コンクリートとし,その長さをやや長くした点が異なる。Zタイプは,杭端部から40cm間を鋼管コンクリート巻きとし,フーチング内への埋込みを10cmにとり,定着用PC鋼材を鋼材径の50倍まではつりだしてフーチング内に定着する方式である。また,無筋コンクリートを鋼管コンクリート巻きの部分の杭中部分に中詰めしている。
  第2回実験シリーズでは,第1回実験と類似の接合方法X’,Y’,Z’が選定されているが,主としてフーチング内への埋込み長さの影響を解明することが目的とされている。
  以上の解析結果及び実験結果から得られた結論は,次のとおりである。

  解析結果に関連しては,

  1. 実用的には,杭長LがβL≧3の条件を満たす場合に長い杭と判別され,無限長仮定による理論解を用いることができる。βは第2章の(2.3)式で示される係数である。
  2. 杭頭完全固定の場合の杭頭曲げモーメントの理論値に対する実際の曲げモーメントの比として定義される杭頭回転拘束度αrは,長い杭においても重要な影響要因となり,杭頭曲げモーメントや変位などに対し,線形の関係にある。
  3. 短い杭(βL<3)の場合には,杭頭回転拘束度αrのみならず,杭先端の境界条付が,杭の応力・変位に対して大きな影響を及ぼす。例えば,杭頭曲げモーメントに関しては,長い杭の場合に対し,杭先端が自由または固定のときβL=1.5付近で約1割,杭先端がピンのときβL=1.0付近で3〜4割大きい値を示す場合がある。また,極端に短い杭で,杭頭,杭先端が固定条件である場合には,せん断力がほぼ一定で逆対称的応力分布となり,ときには,杭頭より杭先端の曲げモーメントの方が大きくなるというケースも生じる。したがって,杭頭及び杭先端の境界条件が重要であり,有限長としての解を用いる必要がある。
  4. 有限長から,無限長までの理論解が得られたことにより,同一建物内で長さが異なる杭が混在する場合の杭基礎の水平抵抗を解析することが可能となる。

実験結果に関連しては,

  1. フーチングへの杭の埋込み長さは,耐震1次(許容応力度)設計における回転拘束度αrへの重要な影響要素の一つとなる。埋込み長さ杭径比が0.2から1.0付近まで変化するとき,軸力あり,軸力なしの条件下では,それぞれαrが平均的に0.7から0.9及び0.4から0.75に変化する。
  2. 高強度プレストレストコンクリート杭の終局状態は,とくに軸力が作用する条件下では,杭体のせん断破壊で決まっている。それ故,耐震設計において杭のせん断耐力の検討はとくに注意深く行うことが必要である。


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