■建築研究資料

設計用入力地震動作成手法

北川  良和,   大川  出,   鹿嶋  俊英

建築研究資料  No.83,  November  1994,  建設省建築研究所


<はじめに>

  建築物の耐震設計理念とその方法を定めた建築基準法および関係法令は昭和56年に約30年ぶりに本格的に改正された。この改正は、これまでの地震被害経験、大地震時における建築物の動的挙動に関する研究的及び技術的成果を設計方法に反映したものである。一方、超高層建築物や免震建築物の耐震設計では、実際に観測された地震動波形を用いてその耐震安全性を検討するという動的耐震設計手法が行われている。しかしながら、種々の地盤に建設される建築物の設計にいかなる地震動を用いるべきかについては、各種の建築物に共通して適用できる合理的で一般的な手法が得られるにいたっていない。動的耐震設計において当該建築物の条件(建物の動的特性、地盤条件および地震発生頻度)に適応した地震動特性の設定が重要であるが、現実には(1)過去に得られた強震記録、(2)その振幅、周期特性を修正したもの、(3)特定の模擬地震動が用いられている。具体的には、米国エルセントロやタフト等の地点で観測された強震動波形が設計用入力地震動として広く利用されているが、変化に富んだわが国の敷地条件に必ずしも対応しているものとはいえない。このような状況のもと、設計に使用すべき地震動波形の評価・作成方法に関する適切なガイドラインを策定する必要性が叫ばれている。
  一般に、地震動波形の地震の発生から伝播経路を経て地表に到達するまでに寄与するパラメータは、震源特性、伝播経路特性、地盤の増幅特性である。これらの伝達特性を適切に評価できれば、建築物の立地する地表面での地震動もまた適切に評価することもできる。現在進められている多くの研究も、すべてこの問題に帰着しているともいえる。最近ではやや長周期領域で入力地震動問題とも関連して、断層モデルが工学的に応用され、強震動特性もしだいに明らかになってきた。
  これらの背景のもと本研究では、地震動特性の研究の現状把握、各項目の成熟度の調査、建築物の耐震性能評価項目の抽出、設計用入力地震動とその作成手法等に関して重点的に検討し、建設省建築研究所と(社)建築研究振興協会が共同で実施している仙台高密強震観測事業で得られた各種地盤での強震観測結果を積極的に利用し、地震動特性、設計用入力地震動に関する研究を実施した。
  本研究の遂行にあたって、建設省建築研究所は(財)日本建築センターと昭和63年度より4ヶ年計画で共同研究協定を結び、同センター内に設計用入力地震動研究委員会(以下、研究委員会と称す。顧問:梅村魁東大名誉教授、志賀敏男東北大学名誉教授、委員長:加藤勉東洋大学教授)を設置し、設計用入力地震動に関する調査検討を行った。
  以上のような背景のもとに本研究では、耐震設計の合理化および効率化に資するために、現時点における地震動に関する知見を集大成し、「設計用入力地震動作成手法技術指針(案)」(本文・解説編)がまとめられた。
  なお、本文・解説編は、地震動特性に関する研究成果を設計に用い易い形に一般化されており、また記述も必要最小限にとどめられているので、その根拠を知ろうとする場合には、必ずしも十分とはいえない。
  このため、本文解説編の参考資料として「同技術指針(案)資料編」が作成され、設計者自身が設計用入力地震動の評価を行う場合に利用できるようになっている。
  本建築研究資料は本研究での設計用入力地震動作成手法技術指針(案)の作成にあたり、調査検討を行った設計用入力地震動の現状と指針作成の背景、研究計画とその概要および設計用入力地震動作成手法技術指針(案)と各種基準・指針との比較などについてとりまとめたものである。


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