観測地震波に基づく高層住棟の耐震性について
構造物・地盤の地震観測小委員会作業部会
建築研究資料 No.38, 1982, 建設省建築研究所
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<概要> |
1.公団住棟構造物の一般的傾向について
ここでは日本住宅公団(現 住宅・都市整備公団)がもっている構造的な特性が、統計的にみてどのようなものであるかを述べた。鉄骨及び普通コンクリートの使用階、地震用床荷重の大きさ、柱・壁率、耐震壁の厚さ、柱圧縮応力度、柱せん断応力度、梁せん断応力度、柱鉄筋比、杭長、地盤の種別などを、比較的新しい資料に基づいてとりまとめたものである。これによって、ここで対象としている建物の位置づけがある程度可能となる。
研究の対象とした高層住棟の構造部材は、平均的なものと大差ないが、やや小さめのようである。昭和48〜51年に建設された72棟の建物の地盤は、その90%以上が軟弱地盤に属する。高層住棟も沖積層厚さが20m以上の軟弱地盤である。したがって、軟弱地盤での地震動の特性や地盤,杭,建物の相互作用問題などを解明することは、この種の構造物を扱う場合はとくに重要である。
2.地震入力
地震入力の特性をどのように設定すべきかを述べた。まず1644年から1972年までの地震資料を用いて、東京の地震基盤における最大速度の期待値を、金井博士による最大地震動の推定式とGumbelの第2漸近分布を用いて計算した。次に、深い地下構造として太田博士等の研究グループによって、岩槻で行われた深井戸内の検層結果を使い、浅い地下構造としては、当該観測地盤でのWell-shooting法による検層結果を用いて、地震基盤以浅の表層地盤の増幅特性を計算した。また、当該地盤での地震観測記録から、杭下端における地震動と地表面の地震動が、どのような特性になるかを考察した。その結果、地表面の最大加速値として、再現期間25年程度の中強震では、200gal、再現期間100年程度の裂激震では、400galという値が設定された。また、杭下端の最大加速度値としては、それぞれ、その40%に相当する、80gal、160galという値が対応する地震動に対して想定された。なお、地盤や建物の概要、観測体制や観測記録の概要、記録地震動の検討などの要約もここに記述されている。
3.上部構造物の振動モデル化の手法とその検討
上部構造物のモデル化について述べた。まず、現在行われている計算方法を要約する意味で、弾性剛性、ひびわれ剛性、降伏点剛性、保有耐力の算出法を概説した。次に、既住の実験結果などと対比させながら、そこに含まれている問題点について言及した。最後に、これらの諸量を、具体的に高層住棟に対して試算した。このとき、とくに、長辺方向に対しては、比較的簡略な方法による結果と、全体骨組を直接取り扱い、塑性ヒンジが発生する過程を逐一追って詳細に求めた結果を併記した。結局、地震応答解析に必要な各階の復元力特性は、トリリニア型としてモデル化された。
4.地震応答解析
以上で得られた諸量を使って、地震応答解析を行った。まず、建設省建築研究所が提案した「新耐震設計法」に従って、本建物の耐震安全性を検討した。建物は、両方向とも、各階床位置に質量を集中させた14質点の基礎固定のせん断型モデルに置換された。このとき、1次固有周期は、短辺方向で約0.67sec、長辺方向で約0.86secと計算されている。モーダルアナリシスによれば外力分布は、方向によって多少の違いはあるが、おおむね逆3角形に近い。大地震時地震力による保有耐力の検定では、短辺方向には余力があるが、長辺方向はやや耐力不足という結果になっている。
次に弾塑性応答解析によって、もっと実情に合った形でこの建物の耐震性を検討した。基礎固定系の弾塑性応答がまず計算された。地震入力は、El Centro 1940 NSと、この建物の基礎で観測された2つの地震動の合計3種類である。これらの2つの観測波は、それぞれ、短周期成分が卓越する近距離地震と、長周期成分が優勢な遠距離地震の代表として選ばれたものである。解析結果によれば、短辺方向では、地震の最大加速度200gal程度の中強震で、各階に微小なひび割れが発生する。この時、層間変位は上部ほど大きく、最大1/150程度である。400galの裂激震では、かなりひび割れが発生するが、終局耐力には達せず、層間変位は最大1/100程度になると推定された。長辺方向でも、ほぼ同等の被害が予想されるが、この場合、層間変位は中間階で大きく、200gal入力で最大1/200程度、400gal入力で最大1/100程度である。
次に、地盤・杭・建物連成系の弾塑性応答が検討された。この建物のように、軟弱地盤に建つ杭基礎建物の場合、基礎固定のモデルは簡略すぎ実情に合わない惧れがあり、杭や地盤の安全性が評価できないためである。このモデルによれば、表層地盤だけの1次固有周期は約0.57sec、全体系の1次固有周期は両方向ともほぼ等しく、約0.90secである。地震入力は、同様に、El Centro 1940 NSとこの建物の杭下端位置で観測された2つの地震動の合計3種類であるが、入力位置は杭下端なので、その最大加速度は、2章で述べたように、80galと160galである。解析結果によれば、短辺方向では、中強震に相当する80gal入力で杭に曲げひび割れが発生する可能性があり、裂激震に相当する160gal入力で、杭にかなりの被害が出るものと推定された。しかし、せん断力に対しては十分余力があった。長辺方向に対してもほぼ同様なことがいえるようである。上部構造物の応答は、基礎固定のモデルによるそれとおおむね同程度であるが、詳しい様相はかなり違っている。
以上の解析結果から、研究の対象とした高層住棟の耐震性を総合的に判断すると、100gal程度の比較的頻度の高い地震動で建物を弾性範囲内に収め、400gal程度の極めて稀に起る地震動で、建物には被害が出ても、人命を損なわないようにするという、新耐震設計法の基本的な基準を、この建物は、ごく標準的な形で満足しているといえる。
最後に、付録資料として、本研究に関連の深い地盤調査資料や静的実験資料、地震観測資料などをとりまとめ、参考のために載せた。
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