■建築研究資料

地震対策の普及を目的とした地震リスク・マネジメント手法の実用化

地震リスク・マネジメント研究会

建築研究資料  No.103,  2005,  独立行政法人建築研究所


<概要>

 大地震による建物被害を軽減するためには、事前に適切な防災対策を施しておくことが有効である。しかしながら、個人や企業が所有する私的な建物については、原則として各々の費用負担で地震防災対策を講じる必要があり、建物の所有者自身が、いつ来るかわからない地震に対して投資するケースは多くない。構造体の強度/靭性の向上、免震/制振(震)化など、新築あるいは既存建物のハード地震対策技術は進歩している。一方で、それらに投資することのメリットを建物所有者に説明するためのソフト技術は、現段階では充分に整備されていない。
 このような背景を受けて、既に、建物所有者を地震対策に誘導することを目的とする、地震リスク・マネジメント手法が提案されている。この手法では、建物所有者の総支出(ライフサイクル・コスト:LCC)を地震リスクととらえ、複数の設計案の中から、LCCを最小にする最適案を建物所有者に提示できる。各設計案のLCCを算出する際には、関連する研究分野(地震学、地盤工学、構造工学など)の最新の知見を導入できるので、その時々において、建物所有者に対して合理的な判断材料を提示できる。
 以上の地震リスク・マネジメント手法を実用化するためには、新築および既存の各種建物を対象として、多くの事例研究を実施しておく必要がある。特に、地震対策の普及を目的とする場合、地震危険度の高い地域の様々な実建物を対象として、地震対策の効果を検証した事例を蓄積しておくことが有効である。
 本研究では、以上の地震リスク・マネジメント手法の実用化を目的として、各種建物を対象とする事例研究を行った。ここでは、政府地震調査委員会により発生確率が高いとされる宮城県沖地震と南海地震を考慮して、各建物が宮城県仙台市あるいは高知県高知市に建っていると仮定した。各事例においては、強度型、制振(震)、免震などの地震対策の効果を、地震リスク・マネジメント手法を用いて検討した。本資料は、その研究成果を報告するものであり、以下の各章で構成されている。 

 第1章では、研究の背景および必要性、研究の目的、本資料の構成が示されてい
 る。
 第2章では、本研究で用いる地震リスク・マネジメント手法の概要が説明されてい
 る。
 第3章では、第2章で説明した手法を利用し、宮城県沖地震を対象とした事例研究
 を示している。
 第4章では、第3章と同様に、南海地震を対象とした事例研究を紹介している。
 第5章では、第1章から第4章を総括すると共に、今後の課題についても言及してい
 る。

 なお、本資料の著者である「地震リスク・マネジメント研究会」は、独立行政法人および民間企業12機関が参加する研究会である。(社)建築研究開発コンソーシアムにおいて、(独)建築研究所より研究会の立ち上げが提案され、参加機関が募集された。附録1では、「地震リスク・マネジメント研究会」の活動内容が報告されている。

 

 地震リスク・マネジメント研究会


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